登山と高所環境に関する国際医学会議 見聞録 '98/07/08
                            大阪ぽっぽ会 大見則親

 1988年5月20日から24日まで、長野県松本市で「第3回登山と高所環境に
関する国際医学会議」が開催されたので、聞きに行ってきました。

 「登山と高所環境に関する国際医学会議」とは?
・登山活動(1000mクラスからヒマラヤまで)
・高地に住む人々、働く人        

 の


 を
体にどのような問題が発生するか、    
その原因は何か?            
その場合の処置はどうしたら良いかなど  
 話し合うもの で、登山者にとっては、急性高山病などの処置など身近な問題が話題と
なっており、興味深い議論がなされました。

報告内容
1.「トレッカのための順応」   キーワード; クライム ハイ、 スリープ ロー
    急性高山病の防止策として、
         1)焦って高いところに行かない
         2)無理をしない
         3)寝るときはなるべく低いところで
     
    また、  4)腹式呼吸の有効性
         5)水を飲むことは、排尿作用を促すこと凍傷防止にも役立つこと
         6)どんなに頑張っても、人間は5300m以上では順応できない
          ので、それ以上での滞在時間を少なくするのが重要。 
         7)順応の効果の持続日数は、7から14日間
    が指摘されました。

    薬について   −−−−この分野は、登山者にとっては、苦手な分野だなあ!
    ・排尿を促すには、 ダイアモックス、ピオフィリン
    ・呼吸増加には、  アゼタゾランマイド
ダイアモックスについて、               
   急性高山病(AMS)の予防薬として飲んではダメ 
   AMSに苦しむ人には、 125mg/回 2回/日  
   AMSが悪化する人には、20mgを8時間ごとに飲む。

     質問として、ダイアモックスと血圧降下化剤の組み合わせについて
    −−高所で血圧を下げること自体、危険なこと。山岳ドクターに問い合わせを!

     デキサメタソンは、手のしびれ、胃の粘膜を傷つける副作用があるが、
     急性高山病の予防薬・治療薬としては、とても良い。
     (予防としては、毎日ではなく順応が必要なときのみに取る)

     睡眠薬は、順応するまでは良くない。1度順応できたら危険ではない。

    急性高山病の前兆
    ・1日の排尿が1リットル以下になる
    ・休む回数が増える

    急性高山病になった場合の原則
    ・急性高山病(AMS)になった人をおいて行ってはいけない。
    ・AMS症状が現れたら、高度を上げては行けない。
    ・ひどくなったらすみやかに降ろす。
    ・同じ高度に留まっても、症状は改善しないので、高度を下げること。


2.高所滞在と血中脂質の変化
   高所滞在での高脂質治療の可能性について、報告

    低圧室(7000m相当)と高所トレッキング(3500m)のデータ比較
     
総コレステロール
β-リポ蛋白
中性脂肪 
鉄分   
 低圧室    
 199->190 不変
 454->403 不変
 156->157 不変
 118->138 増加
高所滞在   
206->168 減少 
468->338 減少 
174->111 減少 
106->50 減少 
    <特記>低圧室グループは、睡眠は0m地点
    ・高所滞在は、高脂質治療に有効。ただし鉄分減少するため補給必要。


3.姿勢などと動脈血酸素飽和度の関係
    ・腹式呼吸や、歌を歌うことで上昇する。
    ・横になるよりは、座っている方が上昇する。
     (寝ていると30〜40%下がる)

4.低体温症について
    雪崩の場合の生存確率
     〜15分 92%生存 (8%は衝撃による直接ダメージによる死)
     〜30分 30%   (徐々に窒息で死んでいく)
     〜90分 17%    (エアポケットがあるために、生存できている。
               低体温症によるダメージか?)
     〜120分 3%

    エアポケット確保のための、エアバックの検討がなされている。

    低体温症の症状区別
      
 Stage 1
      
 Stage 2
      
 Stage 3
      
 Stage 4
      
      
 Stage 5
意識  コア温度  特徴             
 有  35〜32   筋肉の震え有り        
                         
 有  32〜28   筋肉の震え無し        
                         
 無  28〜24                  
                         
 無  24〜15   心停止;見かけ上の死     
         (4時間経過後でも蘇生例あり) 
                         
 無  15度以下  死亡と見なす。        

     低体温症患者を発見した場合、医師の処置・判断基準  (スイスの場合)

       ・カリウム濃度 12milliモル/リットル以上 −>蘇生術停止
                (医師が器具を使って判断)
       ・コア温度;食道の温度。
             心臓が動いているときは、鼓膜温度で判断も可。

         Stage 4; 蘇生術継続、冷却防止、人工心肺器へ
             3; 心臓不整脈に気を付ける。注意して搬送
             2; もし飲めるのなら、暖かいものを飲ませる。
                シェルタを作る。肌で暖める。
                人工心肺器に早くつなぐ。

5.学術的な語彙
略称、カナ読み   英語                    日本語     
AMS      
CMS      
HAPE(ヘイプ)  
HACE(ヘイス)  
HAPH     
ISMM     
ハイポサーミア  
ハイポキシア   
ハイパーテンション
Acute moutain sickness          
Chronic moutain sickness         
High-altitude pulmonary edema      
High-altitude cerebral edema       
High-altitude pulmonary hypertension   
International Society of Mountain Medicine
Hypothermia               
Hypoxia                 
Hypertension               
急性高山病   
慢性高山病   
高所性肺水腫  
脳浮腫     
高所性肺高血圧 
国際登山医学会 
低体温症    
低酸素     
高血圧     

6.長野県や谷川岳の救助活動の実態
       ・事故の60%は骨折を伴っている。
       ・1997年には25人の死亡事故発生(長野側の日本アルプス)
          62%;転滑落、16%;心臓疾患を含む病死
       ・ヘリコプタ出動(長野)
          警察 31件 39回
          民間 44件 49回
       ・長野県山岳警備隊
          25人(うち女性2人) 70日間の訓練
          雪崩捜索犬をヘリコプターで現場に運ぶ体制あり
       ・国際会議の終了後、涸沢にて長野県警ヘリによる救助デモがあったが、
        平日火曜日のため、参加できず。残念。

7.海外での救助体制
   ・スイスアルプスでは救助の90%がヘリが活躍.
・民間のヘリコプタによる救援組織が3つあり、一般の事故・急病の場合、 
 全国どこへでも15分以内に駆けつけられる体制になっている。     
 (保険会社がこんなサービスをしていると、以前、富山県警の人から聞いた事がある)
   ・日本でも、こんなシステムは可能でしょうか?

8.会場での展示物
        ガモフバック、 (加圧バッグであり、高度を2000m下げた効果を持つ)
        血中酸素飽和量のモニター
        −−> レンタル有り、それぞれ4万2千円、1万8千円/月
            (株THI、03-5245-0511)

        保温機能付きの担架、折り畳み担架
        衛星携帯電話など

9.公開市民講座
    国際会議の発表が終了後、県立体育館にて開催
      ・田部井純子さんなど海外の著名な登山家による
        エベレストの登頂の話や山岳環境、について

10.次回開催
    日本国内の大会として、1999年に富山(厚生年金休暇センター)で、
    5月21日(金)22日(土)に開催される。

11.感想・その他

    医者の立場としての、救急処置について議論が多く、登山者にとって
   はたして実行できるか悩ましい問題である。しかし、急性高山病や低体温症が
   どんな環境で発生し悪化するか、そのときに我々のできる最善の策は?を、
   正しく知ることは重要であり、我々もこの分野の調査が必要と感じた。

 ISMMホームページ http://www.m.chiba-u.ac.jp/class/respir/ismm98j.htm

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